七回裏の平凡なジーターの打球を遊撃手が取り損ねるところからドラマは進行していたのだろう。救援投手が乱調で九回三点差を護れず黒田の十二勝目が消えた。しかし九回裏、地元ニューヨーク最終戦のジーターがサヨナラ右翼前ヒットなのだから、野球の神様の配剤としか思えない試合だった。
高原永伍の引退は平塚競輪場の朝のB級一般戦で、日本選手権競輪の前検日だった。出張先から現場の誰かに頼んで車券を買って貰った記憶がある。先行一車の高原が勝って二百円台の大一番人気だった。川口オートで広瀬登喜夫が引退した日は何かの特別競輪決勝の翌日だった思う。出張明けの疲れと雨と寒さに怯んだ俺は、自宅から二十分の現場に行くことが叶わなかった。雨走路を広瀬が逃げ切った車券もおそろしく低配当だった筈だ。
期末になるとそこかしこの競輪場で引退(まだ現役続行可能なのに去る選手と、下位成績で登録を抹消される選手との違いはここでは触れない)レースがある。有終の華を持たせようと露骨な作戦レースも少なくない。ある関係者が「ずっと九着ばかりだった選手が何故最後だけ勝てるのだ!」と激怒したという話も頷ける。
――最後だから勝たせるだろう。そんな車券に喰い付く俺が言うのもなんだが、ちょっと違う薄寒さを感じなくもない。
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