ブログ

江戸川競艇場の無料バス

2014/12/18 17:18 閲覧数(4243)
このブログを違反通報します
違反通報のフォーム画面へ移動します。
 時刻表を買わなくなったのはいつからだろう。
 昔は部屋の本箱の一番目立つところに交通公社の時刻表が在った。鉄道マニアでも旅行好きでもなかったから、使うのはもっぱら〈首都圏路線図〉で、そのページだけがしわくちゃになった。初めての映画館に行くのも、知らぬ駅名が最寄りのレコード屋も、近郊のギャンブル場へ遠征するのも、まずは時刻表だった。どこに売っているかもわからない輸入盤を探して歩く。電車を乗り継ぎまた歩く。半日潰して成果なしでも妙に楽しかった日々を懐かしく想う。インターネットが在庫から何から教えてくれるのが「標準」の世代には笑われるだけだろうが。
 「平井駅より無料バス」をスポーツ紙で確認し、時刻表の路線図で経路を調べる。馴染みのない江戸川競艇場を選ぶしかなかったのはギャンブル・ホリディの水曜日だったからだ。関東圏では開催がここだけだったからけっこうな入場者数で、帰りのバスは満員電車なみの混雑だった。道路の渋滞も重なって車内の苛々もたかまり、ここで降ろせと誰かが停車ボタンを押した。これは路線バスではないので途中下車は無理なのだと運転手が説明したのだが、客はしつこく何回もボタンを押し続ける。バスは遅々として進まない。根負けした運転手が一度だけですからと念押しして扉を開けた。降車したのは二三人だったと記憶するが、この「弱腰」が災いした。そこから平井駅到着までの数十分間、車内のあちこちでビィーだったからピンポンだったか、ともかくブザーが押されまくったのだ。ブザー音が響くたびに笑い声が起こる。再度や三度の途中下車があったのかなかったのかは想い出せない。もしや長年月のうちに記憶が誇張されてしまっているのかも知れないが、あの日のバスは上等の楽しさだった。
  • 読者になる

現在、コメントの投稿を受け付けていません。

TOPへ