川口オートの最終競走、「八-三」二百九十円というのを打った。
ド本命にまあまあの金額を賭す。猫背の俺の背骨がちょっとだけ起きた。
あと二周すぎに八―三態勢となったが出来た!の声など出せない。三番車の真後ろから内をうかがう七番車が怖すぎることは、オート素人の俺でもわかる。俺は小さく七番諦めてくれと呟くが、最終回のバックであたりまえのように二着三着が入れ替わった。
レース場を出て、俺は火照った頭を冷ますように歩いた。
小川に架かる橋を渡り、国道122号を越し、ゆるゆる歩きつづけた。
昔はよく競輪場から一駅先、二駅先まで歩いたものだ。最終がはねた直後の混雑が半端じゃなかったこともあるが、最終でパーになると歩きたくなるのだった。オケラ街道、その先の知らない街道や住宅街を俺は歩いた。金はないが暇だけはあったから。途中で銭湯に入ったり、中学校の金網ごしに校庭の部活をぼうっと眺めたり。顧問の教師が怪訝そうな視線で俺を見ていた。西武園競輪場から東村山の駅まで、立川から国立まで、多摩川競艇場から武蔵境の駅まではけっこう遠かったなァ。
一番人気でやられて歩く。
幾つになっても成長皆無の俺が歩いている。
ルー・リードの「ワイルド・サイドを歩け」が聴きたいのだが、イヤホンからのBGMはストロークスのセカンドだ。
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